現役職員に聞く~市役所は本当に地域振興ができる職場なのか~

今回は、現役市職員に「市役所は地域貢献ができる職場なのか」その真相を聞いてみた。

このインタビューをすることになった経緯は、リスクモンスターが発表した「2018年3月卒業予定の大学3年生 就職したい企業、業種ランキング」の結果、公務員人気が圧倒的で、地域貢献がしたいから公務員という理由で公務員を志望する学生が多かったからだ。

1位 地方公務員 6.8%
2位 国家公務員 3.8%
3位 ソニー   3.6%
4位 JR東日本  3.0%
5位 任天堂   2.6%

地方公務員を目指す理由は「地域貢献がしたいから」「安定しているから」。

地域貢献がしたいから公務員という志望理由は、公務員の採用担当者は耳にたこができるほど聞いているだろう。

実際に、民間企業も収益を上げて法人税などを納付することで、行政サービス向上に貢献するだけでなく、地域の雇用を確保し経済を安定させるという地域貢献役割がある。

その現状も考慮せずに、公共の視点で地域貢献ができるという志望理由を述べても面接官に熱意は伝わらないだろう。

では、市役所をはじめとする公務員の地域貢献はどのような意味なのだろうか。

実際に市役所で働く正職員Yさんに聞いてみた。

定住促進担当 市職員Yさん
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今回は市役所が担う「地域貢献の役割」について話したいと思います。
まず、地域貢献活動を行う組織には3つの形態があることをご存じでしょうか。

1、公的機関(市役所、県庁、国家機関)
2、民間企業
3、非営利法人、地元の団体組織(NPO法人、町内会など)

1と2は違いが分かるでしょうが、
公務員を志望している方は1と3を混同しがちです。

公共交通、社会福祉、商工振興などあらゆる分野で
国家・地方の事業が運営できるように事務を行う国家機関、市役所、県庁に対して
3、非営利法人は決められた課題解決を目標に集まった任意の組織です。
具体的には、近隣にお店がない地域の買い物弱者を守るために
移動販売を始めた組織や、中心市街地の活性化事業を行うために
集まった地域メンバー組織などです。

3は同じ目標、意識を持つメンバーが集まった任意団体なので
公的機関と異なり、自分たちで自由に事業を企画して実行することができます。

一方、市役所をはじめとする公的機関では、予算、事業内容が予め決められており
その事業を遂行する任務があります。

例えば、市が「婚活イベント事業」などの新規事業を企画する場合。
これは市職員がいきなり思いついてできることではありません。
市役所は5年あるいは10年ごとに総合計画、中長期計画というものを定めているので
それらの計画に含まれた内容でないと、新規事業として提案することができません。

総合計画、中長期計画に少子化対策や婚姻数維持・増加が記載されていれば、婚活イベントが
提案できる前提条件が揃います。
市長や幹部職員の意向、あるいは市職員による提案が市長、幹部職員に認められたことより、
始めて婚活事業の来年度の予算を要求することができます。
そして、来年度の予算がついて、来年度にようやく実行することできます。

その際に、市職員は具体的な婚活イベント内容を考えて
イベントが成功できるように調整業務や事務業務を行うことになります。

地道な仕事が続くので、公務員は縁の下の力持ちというイメージがありますね。
しかし、ただ事務作業を勧めていくだけではなく
市職員自身の企画力も要求されます。

婚活イベントについて他自治体の事例を調べると
出会いを全面的に押し出したイベントよりも、より気軽に出会いを探すイベントのほうが
カップル成約率が高いデータが出ています。

そのような参考となる資料を集め、時には恋愛コンサルタントに指導してもらい
婚活イベントが成功できるようにうまく調整し、事業運営できると
プロの市職員として認められますね。

さて、少し話しが脱線しましたが
公的機関はどうしても、自分たちの意志で動こうとしても
予め事業内容が決まっているので、すぐに新規事業を始めることができません。

そのため、私はどうしても商店街の振興がしたい!という熱い思いを持ちすぎている方は
まちづくりNPO団体に所属したほうが良いのではないか?と
採用担当者も感じてしまうでしょう。

すぐに事業企画、実行ができない公的機関と
自由に動くことができる非営利組織。

両者を比較すると、非営利組織のほうが小回りがきいて
地域貢献活動がしやすい体制が整っていて魅力的に見えますね。
しかし、非営利団体は実績がない場合
信頼がありません。予算もあまりない団体がほとんどです。

そこで、公的機関の登場です。
実は、公的機関には最大の強みがあります。

それは、信用です!!

どのような事業を行うにしても
市が主催、共催となっている場合。
市から補助金が交付された事業。

やはり、公的機関が行う場合や公的機関からお墨付きをもらった団体活動は
絶大な信用力を得ることができるので、事業が円滑に進みます。

特に、市職員と協働で事業を進めているNPO団体は信頼されていますね。

最近注目されている徳島県の神山町は
市とNPO法人がうまく連携して
地域活性化に成功した事例だと思います。

徳島県神山町とは

徳島県の山間部に位置し、人口減少が著しい過疎地域でした。
ところが、徳島県が山間地域にも光ファイバー網を整備したことで、NPO団体の努力もありIT系ベンチャー企業が次々と進出。

近年はベンチャー企業などの従業員を対象にした新規店舗も商店街に増え、活気を取り戻した地域です。

神山町はNPO法人の方が大変熱意があり、10年以上地域活性化のために様々な政策を実施し続けてきた結果
成功した要因があります。しかし、市職員がNPO法人と協働することでNPO法人自身が信用を得て、さらに事業遂行ができる環境が整ったことも成功した要因の1つです。

市役所は非営利団体のように柔軟に動くことができませんが、圧倒的な信頼、多額の予算、
市や新聞の広報、全戸配布の回覧などあらゆる情報ネットワーク網を持っており
柔軟に動ける非営利団体を支援することで、公的機関と非営利団体の互いの不利な点を補うことができます。

そして、街の活気を最も生み出してくれるのは2、民間企業です。

神山町に進出したベンチャー企業、商店は地域の生活を便利にして
定住人口増加、税収増加、買い物拠点の増加など
地域住民にとって多くのメリットを生み出します。

本当は民間企業の力だけで地域に活気があることが理想ですが
企業だけではどうにもならない場合があります。

その際に、公的機関や非営利団体が
最終的に民間企業の活力が生まれる地域となるように
支援する役割があります。

でも、公的機関と非営利団体は
お互いが持つメリット、デメリットがあるので
相互補完することで、うまく事業がまわります。

市役所など公的機関がもつ地域貢献とは
「絶大な信用力や情報発信網を活かして、地域活力を生み出す団体を支援すること」ではないでしょうか。